北海道大学医学部で行われたアイヌ研究に関する 総長声明および当協会への説明・謝罪を受けてのコメント
令和8年(2026年)8月4日
公益社団法人北海道アイヌ協会
理事長 小川 哲也
公益社団法人北海道アイヌ協会
理事長 小川 哲也
北海道大学が、2026年7月27日に総長声明を公表し、医学部におけるアイヌ研究およびご遺骨・副葬品の収集を含む一連の行為について、初めて「アイヌの人びとの尊厳を深く傷つけた」と認め、心よりお詫びを表明されたこと、ならびに8月3日の寳金総長と山本副学長からの説明と謝罪を受け、当協会として以下のとおりコメントいたします。
北海道大学が、過去の研究と遺骨収集の問題について、おそらく学内外から様々な意見が出されたであろう中、勇気をもって、声明を出すという決断をされたことに対し、その真摯な姿勢と覚悟に深く敬意を表します。長年にわたりこの問題を重く受け止め、内部での検証や議論を重ねてこられた関係者の方々のご努力にも、心より敬意を表します。7月27日の総長声明に続き、8月3日に改めて説明と謝罪の機会を設けられたことは、大学としてこの問題を一過性のものではなく、継続的に向き合うべき課題として位置づけようとする姿勢の表れであると受け止めております。
しかしながら、この表明をもって過去の行為が許されるわけではありません。1931年(昭和6年)から1977年(昭和52年)にかけて、北海道大学医学部を中心に人類学的研究を目的として行われた遺骨の収集・研究は、故人を敬い弔うという人としての尊厳に対する配慮を著しく欠いたものでした。アイヌ民族を身体的・精神的に劣っていると決めつけようとする差別や偏見を前提とした仮説の下で調査が進められ、客観性を欠いた解釈や、現代の学術倫理の観点からは到底容認し得ない手法が用いられたことは、北海道大学が今回の報告書で明らかにしたとおりです。
当時のアイヌたちからすでに研究に対する批判が示されていた事実を含め、これらの行為はアイヌ民族の尊厳を深く傷つけ、遺族や関係者に計り知れない痛みと悲しみをもたらしてきました。一時は保管数が1000体を超える規模に至り、頭骨と四肢骨を分離して保管するなどの不適切な管理体制が長く続いたこと、返還を巡る手続きの遅れや、アイヌの中に今なお存在する多様な意見と厳しい批判など、歴史的経過と周辺の事情を踏まえれば、この問題は決して「過去の出来事」として片付けられるものではありません。謝罪の言葉が発せられたからといって、失われた尊厳や、奪われた時間、積み重ねられてきた不信が自動的に解消されるわけではありません。
当協会は、先住民族としての尊厳の回復を基本に据え、遺骨の地域返還を第一義としつつ、尊厳ある慰霊の実現と、持ち出しに至る歴史的事実の解明を一貫して求めてまいりました。1982年に当時の北海道ウタリ協会として北海道大学に対し、遺骨の慰霊と返還を正式に要請し、1984年のアイヌ納骨堂建設以降は、毎年のイチャルパを主催して先人の御霊を慰めてきました。さらに、歴代理事長は折に触れ、大学側に対し、遺骨がどのような経緯で各地の墓地から持ち出され、保管されてきたのか、その詳細を明らかにするよう強く求めてきました。その結果、頭骨と四肢骨が分離された状態や、記録の不備により一体化が困難な遺骨が多数存在するというずさんな保管状態であったことが明らかとなりました。
また、北海道大学アイヌ納骨堂におけるカムイノミ・イチャルパや、ウポポイ慰霊施設における鎮魂式、カムイノミ・イチャルパなどの機会を通じ、北海道大学をはじめとする関係大学等に対し、遺骨問題に対する当協会の姿勢を繰り返し表明してまいりました。これらの儀式は、単に先人を慰霊する場にとどまらず、大学側に対して歴史的責任を問い続け、対話を促す重要な場でもありました。
当協会はこれまで、国や文科省を通じ、北海道大学をはじめとする関係大学や博物館等と対話を重ね、地域返還の実現、慰霊施設への集約後も大学側が果たすべき責任の継続、研究倫理の確立といった課題の打開策を模索してきました。海外に流出した遺骨の返還交渉にも積極的に取り組み、先人を故郷の土に還すための努力を続けております。これらの取組は、単に過去を清算するためのものではなく、アイヌ民族が自らの歴史を正しく知り、尊厳ある未来を切り拓くための基盤を築くものであります。
当協会と北海道大学との関係は、このたびの声明と説明・謝罪をもって終わるものではありません。大学が「この反省を単なる過去の総括にとどめることなく、先住民族の尊厳と権利を尊重する学術の実現に向けて、その責任を果たし続ける」と表明されたことを真摯に受け止め、当協会としても、引き続き強い使命感を持って取り組みます。
遺骨の地域返還をはじめ、保管・管理のあり方、研究倫理の徹底、学生・教職員への教育への反映、さらにはアイヌ民族の歴史と尊厳を正しく次世代に伝えるための共同の取組みなど、残された課題は依然として多岐にわたります。とりわけ、持ち出しの経緯に関する一層の調査と情報公開は、歴代の要請に応えるべき喫緊の課題です。これらの課題解決に向けては、相互の信頼を基礎としつつ、時には厳しい指摘も含め、緊密な連携・協力を重ねていくことが不可欠です。
当協会は、大学が今後具体的にどのような責任の果たし方を示していくのかを注視するとともに、必要な対話と協力を惜しまない姿勢で臨む所存です。
当協会のHPにて公開した所信表明「北海道アイヌ協会 存立の趣旨と使命 ― 創立80周年に寄せて ―」の中にもあるとおり、北海道アイヌ協会は他人のものではなく、すべての同族、そしてアイヌ一人ひとりのものです。アイヌ民族の尊厳と権利が真に尊重される社会の実現に向け、関係するすべての方々と力を合わせ、不断の努力を続けていく所存です。過去の痛みを直視し、未来に向けて誠実に歩みを進めることこそが、今を生きる私たちに課せられた責務であると認識しております。
以上

