国際連合人権監視システムの活用
アイヌ民族の日本における先住民族としての法的地位、人権状況や生活状況については、多くの国連機関、条約機関にとっての関心事項であります。1980年に日本政府がはじめて提出した「市民的・政治的権利に関する国際条約」に関する定期報告書において、アイヌ民族に関する記載はなく無視された状態でした。しかし、現在ではこれら国連機関、条約機関の活用などによって、アイヌは日本国における先住民族であると認められ、今後も引き続き「先住民族の権利に関する国連宣言」の当該先住民族としていかに国内対応されるかが国際社会から監視されています。
先住民族問題をめぐる国際連合機構図
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国連人権監視システムからのアイヌ民族に関する言及(抜粋)
人種差別撤廃委員会(条約機関)
  • 一般的勧告23(CERD/C/51/Misc.13/Rev.3 1997年8月)
4. 委員会は、締約国に対してとくに以下の要請を行う:
(a) 先住民族の固有の文化、歴史、言語、および生活様式が、国家の文化的アイデンティティをより豊かにすることを認識かつ尊重し、その保持を促進すること
(b)  先住民族の構成員がその尊厳と権利において自由かつ平等であること、とりわけ先住民族としての出自やアイデンティティにもとづく差別から自由であることを確保すること
(c) 先住民族に対して、自らの文化的特徴と両立しうる持続可能な経済および社会発展が可能な条件を提供すること
(d) 先住民族の構成員が公的生活への実効的な参加について平等の権利をもち、自らの権利や利益に直接関連する決定が、十分な情報にもとづいた合意なくして行われないことを確保すること、
(e) 先住民族の共同体が、自らの文化的伝統や慣習を実践、再活性化し、また、自らの言語を保持、実践する権利を行使できることを確保すること

5. 委員会は、締約国に対し、先住民族が自らの共有地、領土および資源を所有、開発、管理および利用する権利を認め、保護し、また彼らが伝統的に所有もしくは 居住、利用していた土地または領土が、自由で十分な情報にもとづいた合意なく奪われた場合は、それらの土地もしくは領土を返還する措置をとるようとくに要 請する。これが事実上不可能な場合にかぎり、原状回復の権利は正当で公平かつ速やかな補償の権利に差し替えられるべきである。この補償は、できるかぎり土 地もしくは領土という形態をとるべきである。
委員会は、さらに、自らの領土内に先住民族が存在する締約国は、本条約のすべての関連規定を考慮しつつ、定期報告書にそれらの民族の状況に関する十分な情報を含めるよう要請する。
(翻訳:上村英明/明治学院大学国際平和研究所・市民外交センター)
『アジア・太平洋人権レビュー1998』より転載。(一部修正)

 

  • 第58会期人種差別撤廃委員会 勧告(CERD/C/58/CRP. 2001年3月 外務省仮訳)
17. 委員会は、締約国に対し、先住民としてのアイヌの権利を更に促進するための措置を講ずることを勧告する。この点に関し、委員会は、特に、土地に係わる権利 の認知及び保護並びに土地の滅失に対する賠償及び補償を呼びかけている先住民の権利に関する一般的勧告23(第51会期)に締約国の注意を喚起する。ま た、締約国に対し、原住民及び種族民に関するILO第169号条約を批准すること及び(又は)これを指針として使用することを慫慂する。
23. 締約国に対し、次回の報告に、…(ii)1997年のアイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律、…の影響に関する更なる情報を提供するよう求める。

  • 第76会期人種差別撤廃委員会 勧告(CERD/C/JPN/CO/3-6 2010年3月 外務省仮訳)
20. 委員会は、協議を、アイヌの権利に取り組む明確で方向性のあるアクション・プランを持った政策及びプログラムに転換するために、アイヌの代表と協力して更 なる措置を講ずること、並びに、協議におけるアイヌ代表者の参加を増やすことを勧告する。また、アイヌ代表者と協議しつつ、先住民の権利に関する国連宣言 などの国際的コミットメントの検証・実施を目的とする第三者作業部会設置を検討することを勧告する。委員会は、北海道のアイヌ民族の生活水準に関する国家 的調査を実施することを要請し、本委員会の一般的勧告23(1997 年)を考慮することを勧告する。さらに、委員会は、締約国に対し独立国における原住民及び種族民に関するILO169号条約(1989 年)を批准することを検討することを勧告する。
22. 委員会は、締約国の少数グループが自らの言語に関する教育や自らの言語による教育を受けられるように適切な機会を提供するとともに、締約国がユネスコの教育差別防止条約への加入を検討することを慫慂する。
25. 委員会は、締約国がマイノリティの文化や歴史をよりよく反映するために既存の教科書を改訂することやマイノリティが話す言語で書かれたものを含む歴史や文 化に関する書籍及びその他の出版物を奨励することを勧告する。特に、義務教育において、アイヌや琉球の言語教育及びこれらの言語による教育を支援すること を慫慂する。

  • 日本の第7回・第8回・第9回定期報告に関する最終見解 主な懸念事項及び勧告(CERD/C/JPN/CO/7-9 2014年9月 外務省仮訳)
20. アイヌの人々の権利を保護し促進するための,締約国による努力に留意する一方,委員会は,以下を含む締約国により展開された対策における不十分な点を懸念する。
(a) アイヌ政策推進会議および他の協議体におけるアイヌの代表者の人数が少ないあるいは不十分なこと,
(b) 北海道外に居住する人達を含むアイヌの人々とそれ以外の者との間にある,多くの生活分野,とりわけ教育,雇用,そして生活水準におけるなかなか解消されない格差,
(c) 土地と資源に対するアイヌの人々の権利の不十分な保護と,彼ら自身の文化と言語への権利の実現に向けた緩やかな前進(第5 条)。
 
委員会は,先住民族の権利に関する一般的勧告23(1997 年)の観点から,先住民族の権利に関する国際連合宣言を考慮し,締約国に以下を勧告する:

(a) アイヌ政策推進会議および他の協議体におけるアイヌ代表者の人数を増やすことを検討すること。
(b) 雇用,教育そして生活水準に関して,アイヌの人々とそれ以外の者の間で依然として存在する格差を減らすために講じられている対策の実施を強化,加速すること。
(c) 土地と資源に関するアイヌの人々の権利を保護するための適切な措置をとり,文化と言語に対する権利の実現に向けた措置の実施を促進すること。
(d) 政府のプログラムや政策を適合させるために,アイヌの人々の状況に関する包括的な実態調査を定期的に実施すること。
(e) 前回の委員会の最終見解パラグラフ20 においてすでに勧告されたように,独立国における原住民及び種族民に関するILO 第169 号条約(1989 年)を批准することを検討すること。
人権理事会
  • 普遍的定期審査(A/HRC/8/44 2008年6月 外務省仮訳)
双方向の対話及び被審査国からの回答

13.【アルジェリア】
アルジェリアは、特にアイヌの人々の土地及びその他の権利を再検討し、先住民族の権利に関する国際連合宣言と調和させるべきであることを勧告した。

40.【グアテマラ】
先住民族の状況に関し、グアテマラは、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」を履行するために、先住民族と対話を開始する方法を模索することを要請した。

58.【ペルー】
ペルーは、先住民族の権利を特に重視しており、先住民族の権利に関する国際連合宣言を広め、広く国民に注意喚起するための施策、及び日本におけるアイヌ少数民族の人権を十分に尊重するために採用された措置について質問した。
 
結論及び/又は勧告
・特にアイヌの人々の土地及びその他の権利の再検討と、それらの権利と「先住民族の権利に関する国際連合宣言」との調和。(アルジェリア)
・「先住民族の権利に関する国際連合宣言」を履行するために、先住民族と対話を開始する方法の模索。(グアテマラ)
「先住民族の権利に関する国連宣言」採択までとその後の動き
1985年 人権小委員会先住民作業部会が草案作成に着手
1994年 人権小委員会が草案を採択し、人権委員会に送付
人権委員会WGは、11会期を経ても全規定の合意に至らず → 自決権・土地・資源・補償・知的財産等が争点
2006年 人権委員会WGのチャベス議長(ペルー/先住民)が、合意済み規定と上記争点の議長案規定との合作提案を作成。人権委員会廃止に伴い、人権理事会第1会期(2006.6)に提出。人権理事会で6/29採択。
国連総会第三委員会に付託。
2007年 9月13日 国連総会で賛成144、反対4、棄権11の圧倒的多数で採択。日本は賛成票を投じ、反対したのは、すでに先住民族政策を積極的に進めていたアメリカ・カナダ・ニュージーランド・オーストラリアの4か国であった。
2013年 先住民族の権利宣言の国内履行促進を目的に開かれる国連総会「先住民族世界会議」に先立ち、ノルウェーアルタにて準備会合が開かれ、成果文書を作成。
2014年 9月22日 国連総会にて「先住民族世界会議として知られる総会のハイレベル本会議の成果文書」が採択された。